梅干し事件
2013年07月01日
今日は月末なのでT子さんには生活費、R子さんにはお給料、
そしてお手紙を渡します。
今月はこんな話です。
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「梅干し事件」
2013・6・30
今は教職を退いた方から教わった話です。
30年以上の前の話でした。その方が岩手県の北部、いわゆる県北の中学校に勤務していた時の
ことでした。当時は、おかずと牛乳の給食だったそうです。
ご飯は家から持ってくることになっていたそうです。
その夏、違反が発生したそうです。
ある学級の生徒が、弁当箱のご飯の中に梅干しを入れてきたのだそうです。
もちろん、梅干しを入れたのは母親で、ご飯のもちをよくするためでした。
すると、同じ学級の生徒の一人が、
「先生、A君が弁当に梅干しを入れてきています。 弁当にはご飯だけと決まっているのに。
違反ではないですか?」
と発言したそうです。
その担任は判断に悩んで同僚に相談、やがて職員会議の議題にまで発展したそうです。
テーマは、次の通り。
「白いご飯の中に梅干しを入れてもよいか?」
職員会議は大激論になったそうです。
そして、「梅干しを入れてきてもよい」ことになったそうです。
そのことはすぐに生徒たちに告げられたそうです。
そこからがたいへん。大きな事件に発展したのです。
ある学級では、梅干しが「胡麻」になり、やがて、「海苔」になり、
さらに「卵焼き」を弁当に入れてくる生徒まで現れたそうです。
その学級の生徒は、「梅干しがよかったら、塩入りの胡麻を入れてもいいのかな」から、
別な生徒は「ふりかけ」から「ごはんですよ」と拡大解釈をしていったのでした。
この事件はその方にとっていつでも「生徒指導の基本」となったそうです。
この問題は、梅干しを容認したから起こったのではなく、
「梅干しを認めるとき、生徒にどのように話したか」にあると考えます。
梅干しを認めなかったら、このような問題に発展しなかったのではないかという考え方もあります。でも、認めたからこそ、その先生は多くのことを学べたと次のように話されていました。
「中学生の生徒指導で大切なのは、 グレーゾーンの指導(許容範囲をいかに考えさせるか) ではないかと思います。」
校則を守る生徒だけの学校は問題ないですが、生徒たちは学年が進むにつれて、
ルールを意識的にやぶろうとします。そのとき、教師はどのように指導するか、
まさに教師の力量が問われるのは、この時です。
中学校の生徒指導は、こういったことの連続みたいなものです。
髪を束ねるゴムが黒色から紺色へ、そして茶色、やがてピンクになるのです。
まるで、梅干しのように。白のTシャツの小さなワンポイントが大きくなり、
やがて背中に龍みたいな感じです。
教師が想定する許容範囲からやがてその許容範囲を超える事例は多いのです。
業界用語では、1点突破ですね。
線引きの難しい髪型、服装など「中学生らしく」をどう考えさせ、
理解させるかがポイントなのです。
髪を束ねるゴムが黒色と決まっている学校で「紺色がなぜだめなのか」の生徒の問いに
教員はどう答えるのか?
そして、その後、生徒たちが黄色やピンクにしない生徒にするためにどうするか?は
この「梅干し事件」が基本となったそうです。
そして、その先生は担任になるたびに、子どもたちに「梅干し事件」の話をしたそうです。
「梅干しの意味」が分かれば、許容範囲が分かり、
「なんのために」がわかる生徒を育てることができたと言っていました。
「梅干し」がわかる生徒に育てれば、生徒指導は大丈夫だったという話でした。
ちなみに、その先生は、自分の子どもにも「梅干し事件」の話をして育てたそうです。
親も先生も同じように悩み、同じように子どもたちから学び、成長するのですね。