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理容業界振興論文

全国理容生活衛生同業組合連合会主催

2011年理容業界振興論文

 

奨励賞

【夢を伸ばし髪は短く】

~夢をありがとうで輝くこどもたち~

  

 

【はじめに】

 

私たち理容師が、お客様に提供しているものってなんでしょうか?

 

まずは確かな技術。お客様が癒され、寛げる雰囲気や環境の提供など。

店舗ごとに特色を出し、様々な取り組みをもって営業されています。

 

しかし、その中でも私たち理容師には地域社会の一員としての

果たすべき役割があると考えます。

 

それは未来の地域社会の担い手である子どもたちが、

夢をもってイキイキと毎日明るくすごせるよう、

地域の子どもたちを地域の大人が見守り、育てるということです。

 

理容師は子どもの未来を変えてしまうほどの

「夢」や「きっかけ」を与えることができるのです。

 

 

【小さい頃から】

 

祖母の代から続いていた理容室に僕は生まれました。

お客様との距離がとても近く、

小さい頃からお客様に面倒を見てもらいながら育ちました。

土日はもちろん両親が仕事だったので、

お客様から遊びに連れて行ってもらうことも多々ありました。

そんな中で、お客様から叱られ、褒められしながら、

両親、お客様、地域の大人が一緒になって

自分は育ててもらったという思いを強く持っています。

 

長男である僕は「いい跡継ぎがいて安心だね!」

なんて言われているのを耳にしながら、

自分は将来床屋さんになるのかな?と思うようになっていました。

 

中学校の頃には床屋さんになる決意は固まり

、周りの大人は喜んでくれましたが、ただ父親だけが反対しました。

父親の言い分は「世の中にはたくさんの仕事があるから、

いろんなものを見て聞いて、見聞を広げてから選んでも遅くない」でした。

 

長男として家業を継いだ父が自らを振り返り、

子どもには自分で将来を選ぶ自由をと考えていたことを知ったのはずっと後のことでした。

 

そんな親の気持ちを考えることもなく、

むしろ父親への反発もあって高校卒業と共に上京、

理容師の道を歩き始めました。

 

東京では、昼は理容専門学校に通い、夕方から深夜までお店に入りトレーニング。

厳しい毎日であり、何度も何度もやめようと思いましたが、

自分の描いた夢なので、困難でも目指すことができました。

 

今の経験が、きっと将来に役立つはずと自らに言い聞かせながら働くこと、9年。

多くの方のご支援と協力を経て、念願だった自分の生まれ故郷にお店を出すことができました。

一番喜んでくれたのは紛れもなく父親でした。

 

お店を出すという「夢」を持ち、自分で言い出したことが、

根性のない僕がお店をだすことができた理由だと今振り返ってそう確信しています。

 

 

【夢って何?】

 

自分のお店を持つという僕の夢は20代にして叶ってしまいました。

スタッフとお客様にも恵まれ、傍から見るととても順調な船出のようでした。

 

しかし、今まで追い続けていたものがなくなって、

心にポッカリと穴が開いたようになってしまいました。

お店を出して、その後どうする?その答えはみつからなかった。

 

今まで「夢」だと思っていたお店を出すということは

「夢」ではなく「目標」だったことにその時気づきました。

 

何か人の役に立てることがしたいという気持ち、

この気持ちをどうやって仕事で表せばいいのかが分からず、

自分の夢は他にあるはずとの思いが心の中に拡がりだし、

なんだか満たされない日々が続きました。

 

そんな時、仙台で、大人が夢を語り、お互いの夢を応援する

「ドリームプランプレゼンテーション仙台」の開催をインターネットで知りました。

そのプレゼンターの中の一人が僕の関心を引きました。

 

職業は美容師でタイトルが「夢をありがとう」で

「子どもたちに夢を持つ大切さとありがとうの意味を教える」と趣旨の紹介があり、

僕は魅かれるように早速申し込みを済ませ、仙台へと向かいました。

 

ドリームプランプレゼンテーションは、

各プレゼンターが10分間の持ち時間で自分の夢の計画を熱く語り、

会場に集まった人に感動と共感を与えるという企画でした。

参加者には「メンターカード」が配られ、

これにプレゼンターへの激励のコメントや、

その人が夢を実現するためのアドバイスや、

協力できることを記入してプレゼンターに渡す。

それによって自分一人でクリアできなかった問題も解決に近づき、

夢の実現へと近づけようというもの。

 

壇上の美容師は、いつも来ている子どもに「君の夢は何?」と尋ねると

「夢なんてないよ。どうせ叶わないもん」という言葉が返ってきてショックだった。

月に一回、30分も子向き合う時間を持ちながら、

なんと無駄な時間を過ごしてきたのだろうと思った。

自分には親の代わりに育ててくれた祖母がいたが、他界した今、

「ありがとう」と一度も言うことなく別れたことを後悔している。

子どものころから、夢を口にできる環境子どもたちの立場で考え、

整える努力をすること、ありがとうという言葉の大切さを伝えてくれる大人がいれば、

子どもたちの未来が明るくなるのではないか。と涙ながらに語りました。

 

僕はこの話に心を揺さぶられ、同時に自分もできる!と思いました。

メンターカードに

「感動しました!僕の店を夢をありがとう山形第一店舗にしてください!」と書き、

携帯番号を添えて提出しました。

すると2日後、本人から電話があり、ぜひ一緒にこの取り組みを広めましょう!と言われました。

数日後には理美容が抱える問題、

子どもが夢を持てない理由や、

今後の展望を3時間以上も熱く語り合い、ビジョンを共有し、

僕のお店も、12月24日にクリスマス企画として

「夢をありがとう」開催に向けて動き出しました。

 

 

【夢と感謝は人を呼ぶ】

 

今回のプレゼンに参加し、学んだのは

「夢ややりたいことは口にすると叶う」ということ。

 

僕はお客様や、友人知人にクリスマス企画について話しまくった。

すると、「対象は何年生?」とか「いつからいつまで実施するの?」と

自分の中で不透明になっていることを指摘してもらい、

それをクリアしていくことで企画の詳細がくっきりしてきました。

話しているうちに、サンタの衣装にしようとか、

それはどこでそろえるのか等々、企画を彩るアイディアがドンドン膨らんできました。

 

特にうれしかったのは、共感し、協力を約束してくれる人が続々と集まったことです。

 

子ども達が夢を持ち、目を輝かせて日々を過ごしてほしい、

毎日の生活の中で、「ありがとう」と口にですることで、

何気ない日常の中に隠れている思いやりや親切に気づく自分、

温かい心になれる自分を知ることの素晴らしさと豊かさを、

多くの人が願っていたということを

改めて知ることができたことです。

 

 

【夢は人を輝かせる】

 

この話に、大人の自分が子どもの頃持っていた夢や、

誰にも語れずにいつしか消えてしまった夢が心の中より引き出され、

子どもたちにはぜひ夢のある生活を送って欲しい。

日々それを育み、ふくらませるような生活に導くことこそが大人の夢であると、

多くの方が熱く語られました。

 

誰でも夢は持っている。しかし、それを口にする人は少ないのです。

恥ずかしいとか、馬鹿にされるとか、

あるいは、ひそかに心に温めているものと思っているのかもしれません。

 

しかし、夢は何?と聞いてもらえたり、

口にした夢を否定せずに応援してくれたら、

夢を大事に持ち続け、ふくらませ、

誰かに語ることによって

自分を一歩前に踏み出させる夢にすることができるのではないのでしょうか。

 

子どもと30分間向き合うカットの時間に、

夢を聞き、肯定し、応援することを実践しよう。

 

多くの人々との語り合いの中から、

ぼんやりしていた僕の夢もふくらみ、色が付いて行った。

 

 

【とにかくやってみる!】

 

まずは、開催済みである夢をありがとうを真似、

そこに僕のテイストを加えて実施要項を作成しました。

 

期日:2010年12月24日

 

①   対象:小学校の男女(事前に予約)

②   対象者には次のことをやってもらう

Ⅰ.画用紙に僕の夢・私の夢の絵を書いてきてもらう

Ⅱ.きちんと相手の目を見て「ありがとう」という。

Ⅲ.ⅠとⅡができれば当日のカット料金2500円を無料とする。

 

実施に至っては、描いてきた夢の絵を見ながら、子どもの夢の応援隊長となり、

「いいね~!」「絶対なれるからあきらめるなよ!」と、

描いた夢を全面的に受け入れ、応援する。

 

当日はクリスマスにちなんでサンタクロースの格好で子どもの夢を応援する

「ワクワクさん」というキャラクターになってカットをする。

 

「叶」と大きく書いたボードを用意し、

「口に十と書くと叶うという字になる。だから自分の夢を毎日十回口に出して言おう。」

と語りかけ、また、

「十の字はプラスとも読む。だから口からプラスの言葉を出すと夢が叶うんだ。

一番のプラスの言葉は【ありがとう】だよ。ありがとうって毎日十回言うと夢が叶うんだ。」

と話しかけました。

 

そして、毎日の生活の中から「ありがとう」を探すゲームを二人でやりました。

「○○くん、すてきな夢の絵ありがとう」

「ワクワクさん髪を切ってくれてありがとう」と

ありがとうのキャッチボールをし、

日常のありがとうに気づいてもらえるような内容の会話に終始しました。

 

「君を一番応援していてくれている人って誰かな?」

と尋ねると子どもたちは誰でも

「お父さん、お母さん」だと言います。

でも大抵は「ありがとう」は言っていません。

そこで「今日は勇気を出して、お父さんとお母さんにありがとうって言ってみよう!

ワクワクさんとの約束だよ」と約束してもらいました。

 

カットが終わり、膝を折って屈んだ僕と向かい合わせに立ち、

きちんと目を見て「ありがとう」を言えたらカットは無料、プレゼントもあげました。

するとまたありがとうが笑顔と一緒に返って来ました。

 

プレゼントの品は僕のこの企画に共感して協力を申し出てくれた方よりから頂いた協賛品で、

菓子や人形、お花など。

さらに、店内で、親へのありがとうの手紙を書いてもらい、

親が喜んでくれるような、温泉のペア入浴券、ペアのお食事券等をこちらで用意し、

親へのプレゼントと一緒に渡すことにしました。

これも協賛してくれた企業や個人から頂いたものです。

 

予め終了時間を告げ、迎えに来てもらうことになっている親に

本人が「ありがとう」と言って渡しました。

 

ちょっと照れくさそうな子どもの笑顔と、

びっくりしたお母さん、お父さんの顔がとても印象的でした。

 

 

【おかあさんからの一通の手紙】

 

【「子どもの夢応援企画 夢をありがとう」は

自分の夢を明言することにより、

本人にとって、夢がより明確になり、

夢を持つことを肯定してもらったことが、

自分を認めてもらったようで

本人の自信につながったのではないかと思いました。

 

又、両親への手紙をもらい、

日頃怒ってばかりいるのですが、

子どもを授かった時、

生まれてきた時、

ハイハイした時、と

日に日に成長を感じた時の想いを思い出させてくれました。

 

最初はクリスマスの記念になればと(何気に)

参加させていただきましたが、

子、親にとっても、思わぬサプライズでとても嬉しい一日となりました。

 

なかなか味わえない企画に参加させていただいたこと、

本当に感謝しています。

ありがとうございました。】

 

12月24日の一日のみの開催、10名の子どもの参加があり、

子どもたちの夢の絵を一月いっぱい店内にて展示しました。

店内が一気に夢いっぱいになり、他のお客さまたちも、

子どもたちの夢についての会話を楽しんでいました。

 

 

【広がる取り組み】

 

この取り組みは、子どもたちが目を輝かせながら夢を語り、

それを大人が応援する、そんな社会を作りたい。

全国、そして世界へと広げたいという趣旨で始めました。

 

今回、僕はこの取り組みを大きく世間にPRする必要と責任があると考え、

朝日新聞、山形新聞、河北新報、サンデータイムズ、

そしてさくらんぼTVより取材をいただき、当日の夕方にTVオンエア、

新聞記事は翌日の朝刊に掲載されました。

 

すると、多くの反響をいただき、次回の夢をありがとうに参加希望する店舗が4店舗、

そして多くの子どもたちより参加申し込みがきました。

 

何より嬉しいのは、今回参加した子どもたちが、

その後、どんどん明るく元気になり、

笑顔とありがとうを連れて月に一度、

自分の夢の変化や進捗を楽しそうに話してくれることです。

 

 

【地域の大人の役割】

 

今回の企画は、子どもに気づかせるというよりも、

子どもの姿に関心を持ち、小さな変化を感じることで大人が学び、

自らの課題に気づくというものだと思います。

 

僕が子どもの頃には、近所の大人と顔を合わせる度に声をかけられ、

時には叱られ、褒められて育ちました。

近所の誰もが自分を良く知っていてくれていたし、

自分もまた大人を良く知っていました。

今は地域にすむ大人も子どもも、お互いに関心を持っていないように感じます。

 

もちろん子どもを育てる基本となるのは家庭ですが、

家庭のみならず、学校の先生や、

地域の大人がみんなで地域の子どもを

育てていくことが大切です。

 

こんなことは今更言うまでもなく、

誰もが気づき、誰もがそう言い、

当たり前だと分かっている事です。

 

しかし一番大切なのは、

毎日の生活の中でどの切り口から実践し、

どのようにして周囲を巻き込み、

みんなのものにしていくのかが今問われているのだと思います。

 

 

【結びに】

 

「夢を伸ばし、髪は短く」これは何度も熱心に取材に訪れてくれた

新聞の記者が今回の記事に付けたタイトルです。

 

新聞、テレビでは「ユニーク」「変わったサービス」の文字が並び、

表現されました。

確かに理容師とサンタクロースは関係があまりないかもしれません。

 

しかし、「髪を切る」「髭をそる」「シャンプーをする」

理容業の直接の業務だけでない「夢」という目に見えないものに価値を感じ、

それを求め、来店してくださるお客様、

子どもたちが後を絶ちません。

 

不況だからとか、安売り店が出て来たからという言い訳をする暇があったら、

髪が短くなるという価値以外のものをお客様に提供してみましょう。

 

理容師は地域の宝である子どもたちに「夢」さえも与えることができます。

 

地域の未来を担う子どもたちは、

理容師も地域の一員として、夢を応援し、明るくイキイキと育てる。

 

そんな理容師が一人でも多く増え、

この取り組みが世の中に大きく広がることを願っています。

 

理髪館いとう 代表 伊藤規雄