手紙を読み返す日


2017年03月06日

今日3月6日は

僕にとって特別な日です。

24年前の今日、

理容師を志し

生まれ育った天童を離れ

東京へと出発した日です。

駅のホームで涙を流し見送る母親と

こんな時でもお客様が来ていて
そっけない挨拶しかできなかった父親

2人の姿が今も目に焼き付いています。

出発の前

これから始まる新しい生活に

胸を躍らせながらも

強がって

寂しい思いや不安を必死に隠して

何の根拠もなく書いた

思い描く夢見る将来を手紙にしたため

師匠に出しました。

その返事に届いた師匠からの手紙を

今日も読み返しています。

 

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前略御免

本日理容学校に願書を提出しました。

君からの手紙を昨夜も読みました。

これで3回目です。

私も30数年前、

山形の理容室に修行に行った時の

不安な気持ちを思い出しています。

私がどんなアドバイスをした所で、

生まれ育った天童の実家を離れて暮らすという不安は、

消すことはできないのかも知れません。

しかし、若者が社会に出ていくという経験は

誰もがするものだし、

時期が早いか遅いかだけの問題で、

みんな君と同じ不安を胸に職業に就いていくのは

避けて通れない、それが世の中だと思います。

理容を職業として選んだ君に対して、

私から君へ伝えておきたいことが一つだけあります。

我々の職業は「待ち」の職業と言われてきましたが、

私の考えではお客様がいない時間帯をどう過ごすのか、

またキチッとして待ち続けることができるか。

以上の事が技術と同じくらい大切なことだと

私は考えています。

つまり、「上手に」、「飽きずに」

時間を使うには

「心」を養うことと「慣れる」ことが大切です。

しかしそれは一年二年で出来るものではないのです。

日本一の技術者でも、

経営に失敗した人はたくさんいます。

自分に与えられた仕事に

心を込めて、忠実に、ベストを尽くす。

目標をあまり遠いところにおかずに

目の前の小さな目標を

一つひとつクリアしていく人間が

最後には最短のゴールにたどり着けるものだと

私は思います。

目の前の出来事や仕事のことよりも、

立派でハイセンスな店を作る夢ばかりを見ていて、

今の自分の置かれた位置が見えていない行動をする若者がいます。

本人が今、今日やらなければならないことを飛び越えて

頭が遠い夢のことだけになってしまっている若者は、

オーナーには向かない人柄であると私は考えています。

勿論夢はあって当然のことです。

夢を持つなとは言いません。

しかし、現在の君が何を言っても

世の中の大人は一銭のお金も貸す人間はいない

ということを理解してください。

人間はその人の日頃の行動や

現在までの実績でその人を認めたり、

認めなかったりしているのです。

一日も早く人に認めてもられるような

若者になることを目指して、

日々を地道に暮らしていける君でありますようにと

祈るような気持ちです。

君には私が付いています。

心構えだけしっかりとして上京すれば、

きっと大丈夫だと

私は楽しみにしております。

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口先ばっかりで

何にもできな生意気な僕に

目の前のことに全力を尽くし

毎日を積み重ねることの

大切さを説いてくれた

師匠の元から離れて15年。

あの時言われたあの言葉は

こんな意味だったんだな。

こんな風に考えてくれてたんだな。

日々の生活の中でふと思い出す度に

改めて師匠の大きさと

愛情を感じています。

感謝。

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